■シルバー世代にやさしい住宅を考えておられますか?
『バ リ ア フ リ ー』とは
バリアフリーという言葉は、1974年、国連の「障害者生活環境専門家会議」において、『障害のある人々が社会生活をしていく上での障壁(Barrier)を除去しよう』という報告書のなかで使われた「バリアフリーデザイン」に端を発する建築用語として登場した。
そこでは、公共的建築物での「段差」や「精神的障壁」となるものを取り除こうという意味合いが強かった。しかし世界的に例を見ないスピードで高齢化が進んでいる日本では、この「バリアフリー」の解釈を広義に捉えて進めなければ、「暮らしよい高齢化社会」は実現できない。
「バリアフリー」イコール「段差のないこと」といった、狭義の捉え方が当たり前のようになっているが、建築的・物理的には勿論、社会的・制度的、また心理的な障壁となりえる全てのものを取り除いていく考え方が必要。
■起きる・寝る・休む
バリアを乗り越えようという意欲が身体機能の回復につながることもあるが、バリアのない住宅が生活を豊かにし、行動範囲を広げるしかし全てに便利である必要もない。ベットのなかで全てのことがすまされる環境を作り出すのではなく、身体機能が低下しても十分自宅で生活できるよう自立能力をサポートすることで、残された力を引き出せるような環境作りが必要。
寝室は東南方向が理想
寝室を優先させるか否かは、要望や高齢者の身体的状態と併せて考えなければならないが、東南方向が理想的です。目覚めたとき、自然に入ってくる朝日が与える心理的効果は西日よりはるかに大きい。一番いい位置を断念する場合でも、太陽光を取り入れたい。明るさや暖かさのほか殺菌力や除湿効果もある。
一晩過ごした寝室は、湿気・臭気がこもっているが、高気密化した最近の住宅では、隙間風による自然換気ができない。極力冷房に頼らなくてもよい風通しのよい配置と換気の計画が重要です。
寒い廊下を通らない動線に
高齢者は頻尿のため、夜中にトイレにいくことが多いので、寝室はトイレに近いことがいいが、冷気のある廊下や玄関を通らない配置がよい。また、居間や食堂などから完全に独立しているより、周りの気配が伝わってくるような、また他室からは寝室の様子が分かるような、暖かな独立性が望ましい。
夫婦別室は安眠のモト
寝室は夫婦のくつろぎの場であり、憩いの場でもあるが、就寝時間や起床時間の違いなど生活サイクルが、長年の生活の中で違ってくるケースがある。また、酒気・いびき、夜中のトイレへの出入りや電気の点滅、足音などは相手の安眠を妨げ、お互い気を使うことになる。そのため、一方が介助する場合を除き、面積に余裕があるなら別室の方がいいと考える。仮に、通常は同室でも、隣に予備の部屋があれば、一時的に介護が必要なときに介護者が泊まったり、あるいは配偶者が隣室に移るなどの対応ができて有効である。
要は、夫婦の寝室として決めてかかるのではなく、臨機応変に対応できるようにしておくことです。
出入り口は安全に
他室との間に段差を付けないのは当たり前だが、扉は引き戸が望ましい。引き戸は、開閉の際、前後の動作の必要がなく、車いすを使うようになっても開閉が容易である。手を挟まないように引き残しを取り、埋め込み型のレールか吊り戸としたい。開き戸は開閉に難があるが、気密性に優れている。開閉時の音を和らげるドアセルファを付け、沓づりは設置しない。
扉の材質は、視覚的・触覚的にやさしく、汚れても拭き取りやすいこと。把手は、身体を支えられるしっかりした握り棒や手をかけやすいレバーハンドルがよい。両手で身体が支えられるよう、扉脇に補助の握り棒を付けるとさらによい。
寝室はプライバシーが必要だが、それとなく様子をうかがえるような小窓を付けたり、換気用ガラリを付けることも状況によって必要です。
仕上げ材は慎重に
床材は、つまづきやふらつき、スリップ事故などにならないよう滑りにくい素材がよく、同時にポータブルトイレを置くことや失禁の可能性に対して不衛生にならないよう、汚れにくく拭き掃除がしやすいコルクタイル・リノリウム・フローリング・縁甲板などが適している。
壁や天井は、毎日の生活の中で自然に目がいく部分であり、落ち着きがあり暖かみのある素材(漆喰・珪藻土・縁甲板等)と色を選びたい。
歳をとると、青系は黒と黄色系は白と見分けが難しくなる。空間全体を明るい暖色系でまとめたい。壁に手摺りの付く可能性がある部分には下地材を入れておく。
■トイレ
寝室とトイレは至近距離に
高齢者にとって、夜中のトイレ通いは避けられない問題です。トイレは、寝室から至近距離で、かつ室温に大きな変化のない動線で計画したい。
寝室と隣接させることを考えると、使用時の音を最小限に抑えるためサイフォンジェット式がベスト。夜中は、小便のみのことが多く、毎回換気する必要がないので、照明と換気扇の連動方式は避けたい。
トイレの広さは、4尺×5尺を芯芯3尺幅のトイレは何とも狭い。狭小敷地の住宅では、階段の下部にトイレを設ける例もあるが圧迫感は拭えない。
トイレの広さは、4尺(約1200mm)×5尺(約1500mm)を確保したい。便座から立ち上がるのを補助するには、L型手摺りがいいが、もう片方に肘をつける場所があると便利。
手洗い器から続いた棚状甲板とすると、元気なうちは手摺りを設置しなくても手を付いて立ち上がることが出来てかなり楽です。高さは700mm〜750mm程度が無難でL型手摺りと高さを合わせるのを忘れずに。
換気扇の位置は、給気箇所から一番遠い箇所を選び、大きさはφ100mm程度のパイプ扇で十分です。スイッチは、5分程度の遅れスイッチにすると消し忘れ防止に。
トイレの扉は給気を考えてトイレの扉は引き戸が望ましいが、開き戸とする場合でも、内開きとするのは絶対に避ける。トイレ内部で倒れた場合に、開けることが困難になることがある。
引き戸とする場合は、吊り戸とし、下端の隙間を給気口として利用するとよい。開き戸の場合でも、下端を15mm程度開けて床面との間に隙間をつくっておくと、給気口となり換気に役立つ。
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